“記録”の視点に自分の感性を入れて。 一枚一枚、自分の目でこの世界を残していく

― はじめにアンさんが写真を始めたきっかけや、写真にのめり込んでいった経緯について教えてください。

写真を初めたきっかけは大学3回生の頃にネットで偶然見たとあるフィルム写真です。駅のホーム、人々、空に映っている夕日がフィルムに綺麗に映っていて、心のどこかが刺されたような感じでした。

そこで決意してアルバイトで稼いだお金で人生初めてのカメラ(RICOH GR II)を買いました。無論そこからいろんなことに興味を持っていましたが、写真を撮ることを諦めることはありませんでした。そして大学を卒業して、社会人として様々な仕事にも触れたのですが、写真に対する感情が最も強く、自分の人生で写真の存在が欠かせないということに気づきました。それで今、隙間時間があれば必ずカメラを持ち歩き良いと思う瞬間を記録しています。

― アンさんの写真は、美しさと共に、穏やかな波や朝を連想させる静けさのようなものを感じます。それはきっとアンさんの感性や美意識がそのまま表れているからだと思います。アンさんが魅力を感じる瞬間や、写真を通じて表現されていることについて教えてください。また、写真家でも写真家でなくても影響を受けた方はいらっしゃいますか。

穏やかな性格ではないですが、心の奥では自分は静かなものを熱愛していると思います。

写真はそれこそ一瞬の静かさを記録します。街中で普通に生活している人々、朝の光に照らされている港と海、喫茶店で寛いでいる人々と目の前のコーヒー、旅行の途中に出会った人々とその一瞬の景色。写真を撮るのではなく、自分はいつも“記録”の視点から誰か何を自分の視点から記録しているのかと考えています。つまり、距離感を重視しつつ自分の感性を入れ、その場の一瞬を表現しています。

影響を受けたのは写真家の濱田英明さんです。子供の写真が印象深いと思う方が多いと思いますが、私にとって、濱田さんの最も印象深い写真は彼が記録したヨーロッパ旅の写真集です。その中から伝わってきた世界との距離感を大切にするという視点は凄く自分の写真に対する考え方に影響しています。

― また、自然体でカメラの存在を感じさせないポートレートもとても魅力的です。ポートレート撮影において、関係性作りや撮影時などどんなことを心がけていらっしゃいますか。

ポートレート撮影に関して、光の加減、色合わせ、構図などの基本的なことを大切にしています。そして何より自然な被写体の姿を記録することを心がけています。

そのためにいつも撮影時に被写体を撮る目的にせず、被写体さんが気付かないうちに撮ったりすることが多いです。

― フィルムはデジタルと比べて手間もコストもかかると思います。デジタルが主流の時代において、あえてフィルムで撮る理由や、フィルム写真だからこそ表現できることやその魅力について教えてください。

実は2年前にデジタルカメラを手放しました。フィルムカメラに集中すると決めたのはやはりフィルム写真を撮ることで、写真を一枚一枚大切に撮ることを体験したかったからです。

一枚一枚丁寧に、絞り、シャッタースピードそして構図を考えることで、その一瞬の時間が自分にとって重要になってくると感じ、それで自分の時間を見る眼差しも変わってきたと思います。

― 続いて、アンさんがメインで使っているカメラ・レンズについて、それぞれの機材を選ばれた経緯や用途、お気に入りの点について教えてください。

・PENTAX 67

濱田さんまたはこちらのサイト(one scene)で見たPENTAX 67 の作例から感じた空気感が凄くお気に入りです。晴れの日に海を撮る時に必ず持っていきます。

・ROLLEIFLEX T

とても古い二眼レフのカメラで、フリーマーケットで買った時に今はこんなに気に入るとは思わなかったです。6x6という真四角の中で自分が見た世界をどうやって表現していくのかについて考えるようになったのもこのカメラのおかげだと思います。

・OLYMPUS PEN FT

最初に使おうと思ったのはもちろんハーフカメラなので72枚写真を撮れるところです。しかし、その後はPEN FTで撮った写真から伝わる質感に気に入り、喫茶店などの室内での撮影は必ず持って行くカメラです。

・Nikon FM2

大好きな35mmフィルムカメラです。

お気に入りの理由は色味が綺麗に加えて、自分の初めて買った35mmフィルムカメラだからです。

― 最後に、アンさんのベストショットと、次に狙っているカメラやレンズ、今後の抱負があれば教えてください。

こちらです。豊島に行く時にNikon FM2で記録した一枚です。坂道から進んでいく赤いバスと白い車。海の真っ青の色との対比がとても衝撃が強くて急いで露出を合わせてシャッターを押した一枚。自分が記録したこの一瞬の刹那が誰かの心に通り過ぎているだろうって思うと嬉しいです。

最近ではヨーロッパの旅行で立ち寄ったフリーマーケットで買ったROLLEIFLEX Tが壊れた為、ROLLEIFLEX 3.5F を狙っています。いかに6x6のビジュアルの世界を綺麗に写真で表現していくのかまたまだ道は長いと思いますね。

最後になりますが、実は私は日本人ではなく、5年前から中国から日本に留学しにきた留学生です。5年の日々を通じて夢中になれるものに出会いました。だからこそ、これからも一枚一枚自分の目でこの世界を記録していきたいと思います。