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その人に流れる日常を見落とさないように。 “今の自分だからこそ撮れるもの”を追っていく
フリーのフォトグラファーとして活動されている小林さん。小林さんの撮る、その人の魅力を美しく静かにすくい取るような写真は多くの人を魅了しています。そんな小林さんがどんな感性で写真に向き合い、どんな瞬間にシャッターを切っているのかを知りたくてお話を伺いました。
著者: 小林 駿平 | 作成日: 2021/09/10 | 更新日: 2023/01/28
― はじめに小林さんが写真を始めたきっかけや、写真にのめり込んでいった経緯について教えてください。
小さな頃から何かを作る事が好きで、絵を描いたり、粘土で色んなものを作ってみたり、そんな事に楽しさを感じている子どもでした。母が建築士だったこともあって、家にはデザインの優れた雑貨や家具、インテリアやライフスタイルの雑誌が多くあり、そういったものに囲まれて育ったことが、今の自身の眼差しに少なからず影響していると思います。
写真を本格的に始めたのは大学からで、大学の写真部に入り、そこで周囲の人たちの作品から刺激を受けつつ、毎日写真を撮っていました。当時は200人以上在籍していた非常に大きい部活だったので、プロ級のレベルの人、展示の発想が豊かな人、人間的に楽しい人、様々な人がいて面白かったです。写真を撮ることを通じて誰かと繋がろうとは思っていませんでしたが、そういった場に所属して大切な縁を結べたことは、今でもかけがえの無い財産となっています。
― 小林さんの感性で切り取られた写真は、暖かさと共にどこか静けさを感じ、まるでアートブックを見ているような印象を受けます。小林さんの美意識がそのまま表れていると思うのですが、小林さんはどんな瞬間に魅力を感じ、シャッターを切っていますか。
光の位置、影の形をとても意識しています。歩いていても、「あ、あそこの日当たり良さそうだな」と思ったら、カメラを持っていようがいなかろうがずんずん近づいて見にいったりします。そんな生活なので、よくひなたぼっこ中の野良猫に遭遇することがあります。猫は街の隙間にある良い場所をたくさん知っているので、ひだまりの中で眠る彼ら/彼女らと遭遇できた時は、その感覚に歩み寄れた気がして少し嬉しいです。
魅力を感じる瞬間としては、すれ違った子どもを眺める優しい眼差しであったり、靴を履く仕草であったり、髪を結ぶ所作であったり、その人の中に流れる日常のようなものが現れる瞬間を美しいなと思うことが多いです。人を撮るときは、その人が持つ日常が現れるまで、喫茶店で会話などをして待つこともあります。光があって影があって、人と日常があって、それをそっと見つめて、静かにシャッターを押す。そんな感覚です。
― 先ほどの質問とやや重複するのですが、表現の多様さにも驚かされます。小林さんの写真を見るほどに、どうしたらそんな切り取り方ができるのだろうと考えながら眺めてしまいます。どんな視点で物事を捉えて表現しようとされていらっしゃいますか。また、写真家でも写真家でなくても影響を受けた方はいらっしゃいますか。
写真でしかできない表現とはなんだろうとよく考えています。現実にあるものを静止した状態で写す表現には何ができるのか。これまで多くの先人たちが残してきた作品や表現方法に敬意を払いながら、これからの表現を模索していくことが、写真で表現をすることにおいての大切な指針になっています。
そしてそういった考えを根底に敷きつつ、24歳の今の自分が、目の前の景色を見て感じたことを飾らず写すようにしています。昔、写真家のハービー山口さんのアシスタントをさせていただいたことがあるのですが、その際「今しか撮れないものを撮りなさい」とお話していただいたことがあって、その言葉が今でも頭の中に響いています。“今の自分だからこそ撮れるものってなんだろう“、その視点を忘れずにいたいと思っています。
影響を受けている写真家の方は、川島小鳥さん、川内倫子さん、梅佳代さんの写真がとても好きで、写真集も集めています。写真を撮ることの喜びを感じさせてくれる、素晴らしい方々です。
― 続いて色合いについて教えてください。小林さんの写真は特に緑色、肌色、そして陰影が印象的です。小林さんの好きな色合いや、それを表現するために工夫されている撮影時の設定や現像時の調整おいて心がけていることについて教えてください。また、フィルム写真おいて、愛用されているフィルムがあれば併せて教えてください。
光の位置を大切にしていますが、それと同じように暗い部分、“影“をとても意識しています。個人的にはレンブラントの絵画に見られる陰影の美しさが理想的です。これまで見出され描かれてきた素晴らしい「暗さ」を参考にしつつ、影をただ暗いものとして表現するのではなくて、暖かさと親しみの中に、暗闇への畏れが混じっているような、そんな自身の思う理想の“影“を写せるように試行錯誤しています。
色味に関しては、大切な瞬間を頭の中で思い返すときに見えている色を、写真全体に落とし込もうと色々模索していて、結果段々と今の色味に落ち着いてきました(まだまだ模索中ですが)。感想などをいただく際に、不思議と懐かしい気持ちになりましたとか、おばあちゃんの家を思い出しましたとか、そういった声をいただくこともあって、そういった点では描き出したい色味へ近づけているのかなと思います。
フィルムは35mmも中判もkodak社のフィルムをよく使います。モノクロフィルムは色々試験的に使っていますが、イルフォードに落ち着くことが多いです。
― 小林さんはフィルムカメラも愛用されていらっしゃると思います。デジタルが主流の時代において、あえてフィルムを使う理由やフィルムだからこそできる表現や魅力について教えてください。
フィルムを使う理由は、フィルムが好きだからです。色彩や陰影、粒状感、フィルムそれぞれの特性、どれをとっても興味がつきないです。それに、何年も経った時に見返すのはフィルムで撮った写真がほとんどだったりします。やり直しが効かないからとか、撮れる枚数が決まっていて集中できるから、ということよりも、「フィルムで撮るのが好きだから」が一番しっくりきます。
― 小林さんがメインで使っているカメラ・レンズについて、それぞれの機材を選ばれた経緯や用途、お気に入りの点について教えてください。
メインで使っている機材はフィルムカメラです。中判はMamiya645、35mmはPENTAX SP、ハーフカメラとしてOLYMPUS PEN Dを使っています。どれも機構がシンプルで使いやすく、写りも気に入っています。自身の撮影スタイルには機材がコンパクトな方が合っているので、その点も満足しています。
ただ現場によってはデジタルの機材が求められる場面もあるので、そういった場合はFUJIFILMのXT-3を使っています。直感的な操作性に加え、求めている色彩、写りにしっかり答えてくれているカメラだなと思っています。撮って出しも繊細です。
レンズはXF16-55mm F2.8 R LM WRをメインに、XF 35mm F1.4 RやXF55-200mm F3.5-4.8 R LM OIS、他にはアダプターを用いてオールドレンズを使用したり、ブラックミストNo.2やクロスフィルターをつけたりなど、場面に合わせて使い分けています。
― 最後に、小林さんのベストショットと、次に狙っているカメラやレンズ、今後の抱負があれば教えてください。
最近の写真で自身が「撮れたな」と思った写真はこの写真です。友人から依頼を受けて、実際に生活をしている部屋で撮影したのですが、二人の関係性、呼吸の音、積み重ねてきた時間、そういった目には見えないけど確かにそこに“ある“ものが、写真にじわっと滲み出てきているような気がしています。この写真を友人に贈ることができて嬉しかったです。
今気になっているカメラは、昔写真を師事していた方に借りて使っていたPENTAX67Ⅱです。素晴らしいカメラだったので機会があればまた使いたいなと思っています。ただ、写りが良いから使いたいというよりも、師との思い出が詰まっているカメラなので、その時の記憶を辿った写真を撮りたいから、という思いの方が強いです。
今後の抱負としては、社会情勢を見ながらにはなりますが、来年の秋〜冬頃に都内で個展を開催したいと考えています。今はそれに向けて作品を制作しているので、地道に準備など進めて行けたらなと思っています。併せて写真集も作れたらと思っています。
著者
1997年生まれ、埼玉県秩父市出身。 大学在学中に広告制作会社にてフォトグラファーを経験。卒業後は編集プロダクションに入社し、編集者とフォトグラファーを兼任しながら、商品撮影から作家の個展メインビジュアルまで幅広く担当する。 2021年よりフリーのフォトグラファーとして活動中。
小林 駿平さんの使用カメラ
小林 駿平さんの使用レンズ