Leitz Elmar 5cm

Leitz Elmar 5cm

1930年の誕生から、近年に至るまでリリースされていたLeicaを代表するレンズシリーズとして名高い「Elmar」。登場経緯や製造期間によって、様々なバリエーションに分類され、中にはコレクターズアイテムのような希少モデルも存在します。このElmarの厳密な分類を行うだけでも本が一冊書ける程ですが、「撮影に使うLeica製オールドレンズ」として捉えた場合、Elmarというレンズは、一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか。今回は、Leitz標準レンズの礎とも呼べる「Elmar 5cm(50mm)」の歴史を辿り、作例を交えつつ、その魅力に近づいてみたいと思います。

オールドレンズ / LEICA / 標準
中古:
33,700円〜(2)
Elmar 5cm F3.5の外観
出典:flickr(@ Michael Woodhead)

BESSA R3A / Elmar 5cm F3.5


Leica M3 / Elmar 5cm F2.8
出典:flickr(@ M.Franke)

Leica IIIa / Elmar 5cm F3.5
出典:flickr(@ Michael Woodhead)

Leica M3 / Elmar 5cm F2.8
出典:flickr(@ M.Franke)


1.  歴史

 
1-a ちょっと、複雑⁉ 最初期のElmar
 
早速ですが、Elmarの歴史を調べてみると…
 
1925年
1926年
1930年
 
の三つの“年”のいずれかがスタートとされている様子です。これらの中では1930年とする記述が最も多いのですが、では、それ以外の1925年や1926年は誤った説なのでしょうか。

結論から述べると、「視点の違い」が要因となり、どの“年”も誤りでは無いと考えられます。しかし、“誤りでは無い”のであれば、一体何故、このような事態となるのでしょうか。これには、「LeicaⅠ型」の存在が深く関わっており、このカメラはElmarが登場した経緯を追う場合には無視できない存在です。
 
少し複雑になりますが、順を追って、確認してみましょう。
 

1-b  LeicaⅠ型 それぞれの型
 
LeicaⅠ型は1925年にLeitzより発売されたカメラです。後にこの“1925年型”は「Ⅰ(A)型」と呼ばれます。このⅠ(A)型はまだレンズが固定式となっており、採用レンズは5cm F3.5の“Leitz Anastigmat(ライツ アナスティグマット)”若しくは“Elmax(エルマックス)”銘のレンズが採用され、1926年には同じく5cm F3.5の“Elmar”が採用されます。

この事実から、まず「Ⅰ(A)型組込レンズとしてのElmar 5cm F3.5」銘が登場した年が1926年である事が確認出来ました。

Leitz Anastigmatの外観
出典:flickr(@ Ur Cameras)

次に、Ⅰ型は1926年発売の「Ⅰ(B)型」を経て、1930年にレンズ交換が可能な「Ⅰ(C)型」へ発展します。ちなみに、Ⅰ(B)型はレンズシャッター内蔵カメラとなっており、このような形のカメラはバルナック型、後のM型を通じてライカのレンジファインダー機では唯一の存在です。

そして、Ⅰ(C)型の登場時に交換レンズとして用意されたのがElmar3.5cm F3.5、Elmar 5cm F3.5、Hektor(ヘクトール)5cm F2.5、Elmar13.5cm F4.5の4本でした。

ここで、Ⅰ(C)型用の交換レンズとしてElmar 5cm F3.5が登場した年を起源とする“1930年説”の根拠が示された形となります。
 
さて、残った“1925年”ですが、この頃にLeitzが行っていたサービスに「Ⅰ(A)型の固定レンズをLマウントの交換レンズに改造する」が存在し、その改造されたレンズの一部が“Elmar 5cm F3.5”銘の鏡筒に納められ、出荷された事が確認されており、厳密な意味ではElmar 5cm F3.5とは違うレンズなのですが、「Leitzによる“純正”改造で銘を改め流通した」という点に重きを置けば、Elmarの起源を1925年に求める事も間違いとは言い切れません。
 
順が前後しましたが改めて整理すると
 
1925年Ⅰ(A)型の発売 ※
1926年Ⅰ(A)型固定のElmar 5cm F3.5 ※
1930年Ⅰ(C)型用のLマウントElmar 5cm F3.5
※このⅠ(A)型固定レンズをLマウントに改造した“Elmar 5cm F3.5”

といった形となります。

これらの経緯からElmarの起源として“三つの年”が当てはまる事にご納得いただけたと思います。ちなみに、この改造されたElmarは「ショートElmar」と呼ばれ、現在、中古市場では希少価値の高いレンズとされています。また、ElmaxがElmar鏡筒に納められたレンズはショートElmar以上に貴重なレンズとされており、撮影用よりもコレクター向きという性格のレンズと言えるでしょう。
 

1-c 旧Elmarと新Elmar
 
ここまで、Elmarの登場年について検証しましたが、これだけで最初期のElmarを「ちょっと、複雑⁉」とするほどでも無いのでは…という意見も聞こえてきそうです。しかし、1930年前後のElmarを知る上で外せないキーワードは“硝材(ガラス)”です。

次はその“硝材(ガラス)”にスポットを当て、Elmarがどのように分類されているのかを確認してみましょう。
 

1-d “ゲルツ”と“ショット”二つの硝材供給元
 
発売当初のElmarの硝材は同じドイツ(この時点は戦前のドイツであり、国家としてはヴァイマル共和国)のC. P. Görz(ゲルツ)社より供給された素材を使用して製造されました。

しかし、1925年にゲルツ社は経営困難な状況に陥り、同年に締結されたCarl Zeiss(カール・ツァイス)との協業を経て、翌1926年にドイツ本社がCarl Zeiss財団下のカメラメーカー「Zeiss Ikon(ツァイス・イコン)」に吸収されます。この為、Leitzは1927~28年頃からElmarの硝材をカール・ツァイス財団のガラスメーカーであるSchott AG(ショット)社より供給を受ける形となり、Elmarのレンズ曲率の再計算を行いました。

この経緯に基づき、後年ではゲルツ社製の硝材を使用したモデルを「旧Elmar」、ショット社製の硝材を使用したモデルを「新Elmar」と呼び、区別されて扱われています。
 
改めて順を追うと、ゲルツ社の混乱の影響で1926年前後のⅠ(A)型はゲルツ社製のエレメント、それ以降のⅠ(A)型はショット社製のエレメントとなり、このことから先述の“ショートElmar”には旧Elmarと新Elmarが混在する形となります。

四社相関図


1-e その他の要素
 
ここまで、“製造年”と“硝材(ガラス)”というキーワードに沿ってElmarを追ってきましたが、他にも、最初期Elmarを分類する要素として「鏡筒のメッキの種類」「ピントリングの回転域」「最短撮影距離」等が唱えられています。

順に説明すると、Elmar鏡筒のメッキには「ニッケル」と「クローム」、二つのタイプが存在し、初期のElmarにはニッケルメッキが採用されており、「ニッケルElmar」と呼ばれています。
 
次に、Elmarのピントリングの回転域は「全回転型」と「半回転型」が確認されており、無限遠から最短撮影距離に至るまでの回転が一周するか半周で止まるかでも区別されます。
 
最後の最短撮影距離についてですが、一部のElmarは通常の最短撮影距離よりもヘリコイドを多く回転させることで、最短撮影距離を約50cmとしたタイプも存在し、このタイプは「近接Elmar」と呼ばれています。


1-f 1933年以降のElmar 5cm F3.5
 
1930年に登場したレンズ交換式のⅠ(C)型ですが、この時点ではフランジバック長が定義されず、今日のような同一マウントならどのレンズでも使えるシステムでは有りませんでした。

言うなればレンズ交換式とするよりも、「レンズの取り外しが出来るカメラ」と表現した方が近く、実際には、レンズにはそれぞれ「鏡筒番号」が振られており、ボディナンバーに割り当てた鏡筒番号を持つレンズとの組み合わせのみ使用できるといった状態でした。
 
しかし、このようなシステムではレンズ交換式としてメリットが半減してしまい、Leitzもそれぞれの鏡筒番号のレンズを用意する必要が生じます。そこでLeitzは、Lマウントのフランジバックを28.8mmと定義し、Elmarもこのフランジバックに基づき生産されるようになり、1932年製以降は鏡筒番号を考慮すること無く使用できる環境が整いました。

このような状況下の1933年、LeitzはElmarのモデルチェンジを行います。それまでのElmarでは絞り値が「大陸系列」と呼ばれる推移で刻まれていたのに対し、このElmarでは今日も使われる「国際系列」の絞り値推移に変更されました。Elmarの場合は
 
大陸系列       3.5 4.5 6.3 9 12.5 18
国際系列       3.5 4 5.6 8 11 16 22
 
となっています。また鏡筒もクロームメッキに変更され、中古市場で見かける一般的なElmarは、このモデル以降のタイプになります。

Elmar 5cm F3.5 大陸系列の絞り値
出典:flickr(@ Ur Cameras)

この1933年型Elmar(一般的な呼称では無く、当解説内でのみ使用)にも様々なバリエーションが確認されており、その中で最も有名なのが「赤Elmar」と呼ばれる後期(1950年前後以降)にリリースされたタイプです。赤Elmarは撮影距離表示がレンズ鏡筒側に刻まれ、被写界深度目盛りが赤文字で刻まれている事に因んで呼ばれるようになりました。
 
この赤Elmarが登場する少し前の1946年にはElmarのレンズにもコーティング(モノコート)が施されるようになり、戦後の混乱期を過ぎ、Leitzが技術的に成熟した状況で生産されたElmarとして評価されている赤Elmarですが、性能面での評価よりも希少価値の方が注目され過ぎているという意見もあり、予算面で無理をしてまで購入する必要が有るかはユーザー個々の判断に委ねたいと思います。
 
この1950年代はElmarにとっても大きな「転換点」となっており、1954年にはLeica M3の登場に併せてMマウントモデルが投入され、1957年にElmarは大きなモデルチェンジが行われます。


1-g Elmar 5cm F2.8の登場
 
誕生から約30年間、Leitzの標準レンズの一翼を担ってきた“Elmar 5cm F3.5”ですが、1957年、開放F値を2.8に改め、Elmar 5cm F2.8として市場に投入されました。

確実なタイプ違いが流通したElmarに対し、かなり乱暴な極論を承知で述べれば、今まで30年間モデルチェンジが行われなかったElmarが、ここに初めてモデルチェンジを受けたという形となります。

1950年代は、Leitz製50mmのラインナップはF1.5のSummarit(ズマリット)、F2のSummicron(ズミクロン)が揃っており、また1959年にはF1.4のSummilux(ズミルックス)が投入されます。

このような背景からElmarも大口径化を目指したと推察されますが、F2クラスのSummar(ズマール)- Summitar(ズミタール)-Summicronの流れが、沈胴鏡筒から固定鏡筒へと変化したのに対して、Elmar 50mm F2.8は、従来のF3.5と同様、沈胴鏡筒で製作されました。

一方、F3.5ではレンズ銘板上の小さなパーツで絞り値のコントロールを行っていたのがF2.8では他のレンズと同様に絞りリングに置き換わり、操作性の向上も図られています。

ElmarF2.8の基本的なレンズ構成はF3.5と同様で、新しい硝材を用いる事で3.5から2.8への大口径化に対応しました。このような形で発売され続けたElmarですが、1974年にMマウントタイプの生産を終え、この年をもってLeitzのラインナップからElmar 50mmは一旦姿を消しました。

Leica IIIf + Elmar 5cm F2.8 の外観
出典:flickr(@ Antony Shepherd)


1-h  Elmar M 50mm F2.8の登場
 
LeicaのラインナップからElmar 50mmが姿を消して20年近く経過した1994年にLeicaからM3発売40周年記念モデルとして“M6J”というモデルが発売されます。このM6JはM6をベースに巻き戻しノブやファインダーフレームがM4系に変更したモデルでしたが、このM6J用の標準レンズとして沈胴型の「Elmar 50mm F2.8 for M6J」も登場しています。
 
M6Jのコンセプトが現行ラインナップのカメラをクラシックな外観に仕上げたモデルと考えるなら、沈胴型のElmarが同時に用意されたのはある意味で必然な“流れ”でしょう。ボディだけはなく、レンズまで揃えた姿勢はいかにもLeicaらしいですね。ただ、Elmar 50mm F2.8 for M6Jは以前のF3.5やF2.8 モデルに比べて絞り羽根が16枚から6枚に減り、絞り位置も二群目と三群目の間となり、オールド的な外観とは異なり、良くも悪くも現代的な仕上がりのレンズとなっています。
 
翌1995年にはElmar 50mm F2.8 for M6JをベースとしたElmar M 50mm F2.8が投入され、クローム仕上げの他にブラック仕上げも用意されました。
このElmar M 50mm F2.8はしばらくの間ラインナップに残されていましたが、2007年のSummarit M 50mm F2.5の登場と入れ替わるように発売を終え、レンジファインダーLeicaレンズのラインナップ上から50mm Elmarは消えて久しくなっています。
 

2. Elmarの構造
 
Elmarのレンズ構成は「3群4枚」の構造となっており、この点に於いてよく言われるのがElmarは“Carl ZeissのTesser(テッサー)の派生型”という意見です。
 
確かに、構成内のレンズ形状は「凸-凹-凸凹」といったTesserの形状に似ており、議論されている部分や成立した経緯を考慮しない結論的に述べると、ElmarはTesserの派生型の一つと考えても良さそうです。


一般的なTesser型の構造

しかし、ElmarとTesserには明確な違いも存在しています。レンズの曲率等を除いた大きな相違点は「Elmarの絞り位置は1群と2群の間、Tesser型の絞り位置は2群と3群の間」という点です。

ElmarとTesser 絞り位置

この部分を根拠に、違う“型”であると唱える意見や、Tesser型の特許を回避する為にわざとこのような構造とした等の意見が見られますが、ここで一旦、Elmar以前にLeicaⅠ(A)型に搭載されたElmax5cm F3.5の構造を見てみましょう。

Elmax5cm F3.5 の構造

上図のように、ElmaxはElmarに比べて後群の張り合わせが3枚となっており、逆にレンズ曲率や硝材の違いを無視すれば、Elmaxから後群の一枚目の張り合わせを除いたレンズがElmarとする事も可能です。

この、Ⅰ(A)型のレンズがElmaxからElmarに変更された理由(Leitz AnastigmatからElmaxへは名称の変更のみ)については「複雑な貼り合わせ工程を必要とするElmaxからElmarに変更する事で、Ⅰ(A)型の生産ペースを増強する」と考えられています。

このように辿ると、Elmar=Tesser型とは言い切れない部分も多く、これ以上の判断はユーザー個々の判断に任せるべきなのかも知れません。
 
このElmaxやElmar、Hektorを設計したのがMax Berek(マックス・ベレーク)博士です。Elmaxの“max”は博士の名より、Hektorは博士の飼い犬の名が由来と言うのは有名なエピソードです。もう一つ、博士には次のような面白いエピソードも存在しています。
 
“ある時、博士は執筆したレポートの誤りを指摘されたところ「そのような誤りに気づけない者に向けてこのレポートは書いていないので、訂正する必要は無い」”
 
と答えたそうです。なかなかプライドが高そうな人物のようですね。


2  作例紹介

 
次に、「Elmarらしさ」を感じていただけそうな作例を数点用意いたしました。Summicron 50mmと同様に「シャープ」「コントラスト」「ボケ味」のキーワードでそれぞれに沿う形式で作例を並べましたので、Summicronとの比較や、Elmarの魅力の再確認にお役立ていただければと思います。
 
《シャープ》

SONY α7S ILCE-7S / Elmar 5cm F3.5 (Red-Scale Elmar)
出典:flickr(@ Jim Fischer)

BESSA R3A / Elmar 5cm F3.5
出典:flickr(@ SAGA Gem)

SONY α7S ILCE-7S / Elmar 5cm F3.5 (Red-Scale Elmar)
出典:flickr(@ Jim Fischer)


《コントラスト》

SONY α7R II / Elmar 5cm F3.5
出典:flickr(@ Noel Feans)

SONY α7 / Elmar 5cm F2.8
出典:flickr(@ haru__q)

Zeiss Ikon / Elmar 5cm F3.5 (Red-Scale Elmar)
出典:flickr(@ Jim Fischer)


《ボケ味》

Zeiss Ikon / Elmar 5cm F3.5
出典:flickr(@ Jim Fischer)

SONY α7 / Elmar 5cm F2.8
出典:flickr(@ haru__q)

Leica III / Elmar 5cm F3.5
出典:flickr(@ Surreal Name Given)


3.  ネットユーザーの声

 
他のLeitz製レンズに比較すると、キレのある描写や高い解像度をElmarに求めている方は少ないようにも感じられます。勿論、写真用レンズとして最低限の要求は満たされるべきでは有りますが、むしろElmarの場合はオールドレンズ的な視点で楽しむ方が多い様子で、“Leicaのレンズはかくあるべき”のような風潮はひと昔前のスタンスのようですね。
 

4.  中古市場

 
4-a Elmarの相場
 
長期間に渡って生産された標準レンズであった故に、レンジファインダーLeica用のレンズにも関わらず、低予算からでも購入が可能なElmar。オークションでの出品点数も多く、カメラ店店頭でもElmarだけで数本が並べられている事も珍しく有りません。
 
プレミアム的な評価をされている個体を除いたカメラ店での一般的なElmarの相場としては、並品で30,000円前後、美品で50,000円台から、人気の赤Elmarでは70,000円前後からの値付けが行われている模様です。オークションでは並品の場合10,000円台からの出品も伺えますが、最終落札時には店頭相場より若干安めであっても、相応の価格で取引されている様子です。
 
特に、Elmarの場合、数件の中古取扱店を巡れる状況であれば、前述の通りそこそこの在庫数が見込める為、現物確認が出来る店頭でじっくりと時間をかけて選ぶというスタイルが可能でしょう。
 

4-b 店舗選び
 
オンラインでの購入の場合、特にLeica関係に強い取扱店ではElmarがイベント時に“セール品”のようなポジションで提供される事がよく見られます。これには、Elmarは流通数が多いことから在庫が集まりやすく、店舗側にとってある程度“捌いて”いかないと適正在庫を超えてしまう事が要因と思われます。
 
店舗運営に関しては、それぞれの店、それぞれの事情も有るでしょうが、Leicaレンズの中でElmarは安いとは言え、例えば10本以上も在庫を抱えてしまうとそれだけで数十万の在庫額となりますからね。Elmarの場合、「売れないが、店頭に並べておくだけで集客が見込める」ような商材ではなく、「回転数を上げて、常に活発な取引が行われている」事をアピールし易い商材といったところでしょうか。
 
Elmarに限らず、中古レンズを購入する店舗選びのポイントとして、在庫の回転状況を見極める事が重要です。実店舗の場合、ショーケースに並んでいる位置や個数をチェックし、オンライン店舗では、「SOLD OUT」や「商談中」等と表示されている個体の動向を追うことで、断片的に店舗毎の在庫回転状況を想像する事が可能と思います。
 
数カ月に渡り、ショーケースから商品が動いている様子が無い店舗や、「商談中」表示が続いている店舗、勿論、商品の人気の有無や販売価格によっても左右される要素ですが、“活発に”取り引きが行われている感じはしないですよね。これ以上は購入者自身の判断次第ですが、単に他店との価格を比較するだけではなく、このような形で店舗の“傾向”を見極めることも中古選びには重要なポイントです。
 

4-c 「初めてのレンジファインダーライカ」
 
近年、オールドレンズやフィルムの魅力が再評価されている事に刺激を受け、「Leicaのレンジファインダー機でフィルム撮影にも挑戦してみたい」とお考えの方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。

フィルムを使用するライカ製レンジファインダー機の現行モデルLeica M-AやMPは638,000円(2020年5月現在 ライカオンライン)となっており、気軽に“試せる”ような価格では無いですよね。
 
では、手頃な中古で何か探して…と、なりそうですが、レンジファインダーライカの場合、バルナック型では比較的安価な個体が見つかるものの、M型となると、途端に値段が上がるのが現状でしょう。では、初めてのレンジファインダーLeicaとしてバルナック型がお勧めかどうかは、正直に言うと、少し敷居が高いように感じます。
 
勿論これは、「初心者はライカを使うな」という暴論を述べているのでは有りません。今日のカメラに比べると、バルナック型の場合、その操作は「儀式」と例えられるほど手順を必要とする事が多く、フィルム装填一つをとっても一般的なフィルム式カメラのように装填をサポートしてくれるような機構は備わっていません。

扱いに慣れた方でも確実性を増すために、磁気定期券やテレホンカードのような硬質の薄い板(余談ですが、Suicaやクレジットカードのような厚手のICカードの使用は厳禁)を使い、スローシャッターを駆使して装填を確認している程です。
 
その為、慣れない方が取り扱いを焦り、気付かずに誤った操作を行ってしまった場合、せっかくの撮影機会を逃してしまうばかりか、最悪の場合カメラの故障にも繋がってしまいます。

そうなると必然的に、バルナック型に比べ、操作面では改善されたM型(それでも、フィルムのオートローディングやセーフ機構は付いていないのですが)が残された選択肢となりますが、20万円前後が底値のM2、M4、M6を始め、人気機種のM3、M5となると、更に価格が上がってしまうとお悩みの方に「M4-2+Elmar」という選択をおススメします。
 
ここで何故、M4-2なのか…。ハッキリと言ってしまうと、M4-2はM型ライカの中では「不人気」なモデル(詳細はSummicron50mmの記事を参考)となっており、カメラ店店頭でも100,000円前後、オークションではそれ以下の価格で落札出来る場合もあります。
 
そしてElmar 5cm F3.5は生産本数が多く、他のライカ製レンズと比べて、低予算で購入出来るレンズの一つです。コンディションにもよりますが、オークションでは30,000円台での落札も狙え、根気よく探せばカメラ店でも50,000円程の予算で撮影に支障が無い個体が見つかります。具体的には外装のコンディションや、撮影に支障が出難いとされるレンズ前玉の微細なキズ等が原因で、低めの価格が設定されている個体が”狙い目”と言えます。
 
やや“皮算用”ではありますが、このM4-2とElmarの組み合わせだと、総予算が150,000円以下でも撮影に問題無く使える「Leica」が手に入る計算となります。確かに“150,000円”という金額も決して安くは有りませんが、樹脂パーツや電子文品を多用した他のレンジファインダー機とは違ったLeica独特の質感から「所有する喜び」も得られると考慮すれば、奮発してみるのも充分に価値が有ると思います。
 
M4-2にLマウントのElmarを取り付ける場合は通称「M/Lリング」と呼ばれるアダプターが必要となりますが、社外品で4,000円~ほどから発売されています。尚、無限ロックが付いたElmar用には「半欠き型」と呼ばれるリングが必要となりますので、購入の際には注意が必要です。
 

まとめ

 
1914年にOskar Barnack(オスカー・バルナック)がUr Leica(ウル・ライカ)を試作し、1923年のNull Leicaを経て1925年に登場したLeicaⅠ型。当初のレンズ固定式カメラからレンズ交換式に改良され、ラインナップされたレンズが「Elmar 5cm F3.5」である事を考えると、ElmarはLeica初のレンジファインダーカメラ用50mm交換レンズと呼べる存在です。

しかし、この時点ではまだ、Leicaの評価は現在より遥かに低く、Leitz自身、初期のプロモーションには苦労したという内容も伝えられています。
そのような状況下で、標準レンズとしてLeicaを支え続ける実力がElmarにあったからこそ、後のズミクロンやズミルックス等の「名作レンズ」の誕生に繋がったのかも知れません。

現代的な基準でのElmarは、F3.5は勿論、後のF2.8をもってしても、“大口径高性能レンズ”のカテゴリーに分類される事は無いですが、誕生から約50年も基本構造を変えずに市場に受け入れられた事は、Elmarが“高性能”で有ったと言える何よりの証左でしょう。しかも、Leitzが商業的に成功した状況下で設計・製造されたレンズでは無く、標準レンズとしてLeicaの黎明期を支え続けたとあっては尚更です。

果たして、オスカー・バルナックやマックス・ベレーク博士がElmarの未来をどのように予想していたのか…。今となっては、想像でしか無いのですが、少なくともレンジファインダーLeicaを支えるレンズと認識していた事は間違い無いと思います。カルティエ=ブレッソンやキャパといった”巨匠”も愛用したElmar。次の休みは、そのElmarという“巨匠の眼”で、貴方も写真を撮ってみませんか。
基本仕様
対応マウントLEICA Lマウント
フォーカスMF
レンズ構成3群4枚
絞り羽根枚数16枚
焦点距離

5cm(50mm)

最短撮影距離100.0cm
最大撮影倍率
開放F値
画角46度
防塵-
防滴-
サイズ・重量
最大径×長さ
重量
フィルター径
発売日
発売日