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Super-Takumar 55mmF2

Super-Takumar 55mmF2

Super-Takumar 55mmF2、“黄文字タクマー”の通称で呼ばれたレンズは、Super-Takumar 55mmF1.8と共に、ペンタックスというカメラメーカーの黎明期を支えた偉大な脇役と呼べる名作レンズです。過去には、廉価版レンズといった誤解に近い評価を受け、二束三文の扱いを受けた事も有りましたが、Super-Takumar 55mmF1.8と同じく、現代のレンズには無い豪快なフレアやゴーストが楽しめるレンズとして、近年になって評価が上がった一本です。勿論、基本的な写りはしっかりしたレンズに違いないのですが、では何故、このレンズが“黄文字タクマー”と呼ばれているのか、本当に廉価版レンズなのか、近いF値を持つSuper-Takumar 55mmF1.8との関係性は…等と考え出すと、なかなかにミステリアスな不思議な魅力を持ったレンズと気付かされます。今回は、そんな独特の魅力を持つ“黄文字タクマー”Super-Takumar 55mmF2をご紹介致します。

オールドレンズ / その他 / 標準
新品:
3,122円〜(1)
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7,800円〜(3)

“黄文字タクマー”と呼ばれた 旭光学製55ミリ標準レンズ


“黄文字タクマー” Super-Takumar 55mmF2の外観
出典:flickr(@ Herbert Frank)

Canon EOS-1D Mark II / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ I&D Sioma)

Canon EOS-1D Mark II / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ I&D Sioma)

PENTAX SP500 / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ Trojan_Llama)

PENTAX MX / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ Takayuki Miki)


旭光学の一眼レフ用交換レンズ『Takumar』シリーズについて

 
1.『Takumar』の登場
 
商業ベースに於ける日本初の35mm判一眼レフは1952年に旭光学(現 RICOH IMAGING)から発売された、アサヒフレックスI(マウント口径37mm)というカメラでした。
 
アサヒフレックスIの登場は、その後の旭光学のみならず、日本のカメラメーカー発展の礎をも築く大きな存在と定義できますが、当時のカメラ市場はまだまだライカを始めとするレンジファインダー機が主流で、アサヒフレックス自体も現在のような一眼レフのスタイルとは違い、ウエストレベルファインダーと呼ばれるカメラを上から覗き込むようにしてピントを合わせ、シャッターを切った後に跳ね上がったミラーを手動で元の位置に戻す操作が必要なカメラで、現在のような速写性に優れた一眼レフと比べると、程遠い姿のカメラでした。
 
このアサヒフレックスIには50mmから500mmの交換レンズが用意され、レンズのブランドネームとして『Takumar(タクマー)』の銘を採用、後にバヨネット化されるKマウントレンズ登場まで、旭光学製交換レンズのレンズ銘のベースとなります。(一部、KマウントレンズにもTakumar銘が冠せられた場合も有り)
 
その後、ミラーを撮影後に自動的に復帰させるクイックリターンミラーを備えた改良型となるアサヒフレックスIIの登場を経て、ペンタプリズムを搭載し、マウント径をそれまでの37mmから42mmへ拡大したアサヒペンタックスAP※へと発展していく形となります。

アサヒフレックスⅡA - 「AOCO」マークが刻まれた部分がウエストレベルファインダー。これを上部から覗き込み、ファインダースクリーン上の画像でピント合わせを行う。レンズに刻まれた銘は「Asahi‐Kogaku」となっており、後のTakumarシリーズに見られる「Asahi Opt. Co.」とは異なる
出典:flickr(@ s58y)

このアサヒペンックスの発売に併せ、旭光学はマウントをM37からM42へ変更しましたが、レンズネームには一貫して『Takumar』を採用し続けましたので、Takumar銘レンズにはM37とM42のマウントが存在する形となります。
 
※ 後に発売された製品と区別する為、便宜的にアサヒペンタックスAPと呼ばれるが、発売時点の製品名としては『アサヒペンタックス』となる


2.『Takumar』から『Auto-Takumar』へ
 
クイックリターンミラーとペンタプリズムを搭載し、マウント径も変更したアサヒペンタックスでしたが、まだまだ課題も多く、その中の一つに絞りの自動化の問題がありました。
 
これは、一眼レフの構造に起因する問題で、ピント合わせにも撮影にも同じレンズを使用する構造に起因する以下のような現象です。
 
一般的に、一眼レフカメラでのピント合わせの際には、レンズの絞りを開放し、明るい状態のファインダーの方が、正確にピントを捉える事が出来るのは当然なのですが、アサヒペンタックスにはカメラとレンズ間の連動機能は無く、ピントを合わせた後に撮影に使用する実絞り値までレンズの絞りを調整する必要が有ったのです。

例えばF2の開放値を持つレンズを使い、撮影時の絞り値をF8で行う場合のプロセスを分解すると…
 
①     レンズ絞り値を開放(F2)に合わせ、ファインダーを覗き、ピント合わせを行う
②     実際の撮影絞り値であるF8に絞り値を合わせる
③     シャッターレリーズ
④     レリーズ後も絞りがF8のままとなり、ファインダーも絞り値に因り暗い状態となっている
⑤     次の撮影時には再び①の手順に戻る
 
…といった具合でした。
 
勿論、開放F値固定のままで撮影する場合はその都度絞りを操作する必要は無いのですが、万が一それ以外の条件で開放値のまま撮影を行うと、結果、得られるのは露出オーバーの画像となってしまいます。

この問題を解決する為に旭光学は、シャッターレリーズ前迄のピント合わせ時には開放絞りを維持し、レリーズ後に設定絞り値まで絞り込みをカメラが行う半自動絞り機能を搭載したアサヒペンタックスKを発売します。

この、半自動絞り機能に対応したレンズ群としてリリースされたのが『Auto-Takumar』シリーズで、この時点では、先程の分解プロセスの工程②が自動化された形となります。


3.『Auto-Takumar』から『Super-Takumar』へ
 
アサヒペンタックスKとAuto-Takumarによって半自動絞り化されたアサヒペンタックスシリーズでしたが、撮影後に絞りを開放状態に戻す作業は必要なままで、当然にこの部分を自動化すべく、更なる改良が行われます。

この改良は1961年発売のアサヒペンタックスS3で達成され、前述の①から④の工程中の絞りを戻す操作が自動化された完全自動絞りが実現しました。この完全自動絞り機能に対応したレンズ群としてリリースされたのが『Super-Takumar』シリーズとなり、ピント合わせからシャッターレリーズまでの操作性が格段に向上した形となります。
 
しかし、ここまでの改良はあくまでも“ピント合わせ時に於ける絞り操作の省力化”だけで、露出制御がカメラによって自動化されていない点には注意が必要です。カメラによる露出制御が実現するには、次世代のアサヒペンタックスESとSMC Takumarの登場までしばらく時間を要する形となります。
 

4.『SMC Takumar』シリーズの登場
 
話が前後しますが、Super-Takumar時代に旭光学は画期的な一眼レフ「アサヒペンタックスSP」を発売しています。世界初には至りませんでしたが、装着レンズを通した光量を測定できるTTL式の露出計を内蔵したアサヒペンタックスSPの登場は、これまでのメカニカルな一眼レフから、電子制御された一眼レフへと進化する嚆矢とも言えるでしょう。

ただし、SP自体は露出計を内蔵していますが、カメラボディ自体による露出制御は行っておらず、今後のカメラの発展の道筋を予感させる存在だったというのが正しい評価かも知れません。
 
このSPの登場により期待された、カメラ内蔵の露出計による露出制御の自動化のアイデアを旭光学はアサヒペンタックスESというカメラに於いて絞り優先AEという形で実現し、ESのAE機能に対応したレンズ群として『SMC Takumar』シリーズがラインナップされました。

またSMC TakumarシリーズはこれまでのTakumarシリーズのレンズ表面に施されていた単層コーティングをSMCコーティング(スーパーマルチコーティング)と呼ばれる多層膜コーティングが採用され、この“SMC”の冠名は後のKマウントレンズにも引き継がれています。

絞り制御機能とTakumarシリーズ


黄文字タクマーは果たしてどのTakumarなのか

 
ここまでTakumarシリーズの歴史について簡単に触れてきましたが、では“黄文字タクマー”と呼ばれたSuper-Takumar 55mmF2は一体、どのTakumarシリーズの55mmF2なのでしょうか。
 
と言いつつも、“Super-Takumar” 55mmF2なのだから、当然Super-Takumarシリーズなんでしょ…との声が聞こえそうな話ですが、実は黄文字タクマーは100%Super-Takumarだとは言い切れない事情も存在します。次に、黄文字タクマー自体についてもう少し掘り下げて見る事にしましょう。


旭光学の「55mmF2」

 
黄文字タクマーはSuper-Takumar銘の交換レンズとしてリリースされましたが、実はそれ以前のAuto-Takumarシリーズにも55mmF2はラインナップされており、当然このレンズは「Auto-Takumar 55mmF2」の銘で発売されています。
 
この、Auto-TakumarからSuper-Takumarへの変更時に光学系を維持しつつ自動絞り化されたレンズがSuper-Takumar 55mmF2とはならず、Auto-Takumar 55mmF2とSuper-Takumar 55mmF2は全く違う設計のレンズとなっています。
 
では、Super-Takumar 55mmF2と言うレンズは完全に独立した新光学系のレンズかと考えた場合、これもまた違っており、実は同時期にラインナップされていたSuper-Takumar 55mmF1.8の光学系をそのまま用い、光学系の中に遮光板を組み込み、F値を“2”としたレンズがSuper-Takumar 55mmF2なのです。

よって、かなり乱暴な言い方をすれば、Super-Takumar 55mmF2とSuper-Takumar 55mmF1.8の光学系は同じレンズと呼べる事になります。このような経緯で登場したSuper-Takumar 55mmF2は、レンズの焦点距離と開放F値を表す表記「1:2/55」の部分が黄色の表示となっている事から、「黄文字タクマー」と呼ばれるようになった所以です。
 
更にこのレンズの素性を複雑にさせている要因として、リリース後期の製品になるとレンズ表面にSMCコーティングが施されたタイプが確認されており、レンズのコーティングという観点からすると後のSMC Takumarに準じる製品と考えることも出来るという訳です。(但し、アサヒペンタックスESの絞り優先には非対応)

また、ウィキペディアにはSMC Takumarのラインに55mmF2は記載されていない模様ですが、SMC Takumarシリーズでも SMC Takumar55mmF2として、主に輸出向け製品のセットレンズとしてリリースされていた模様で、一説には、このSMC Takumar55mmF2も「1:2/55」の部分が黄色の表示であったという証言も存在します。

この証言と黄文字タクマーの由来を考えると、このSMC Takumar55mmF2も黄文字タクマーと言えますので、敢えて愚問にも思える「黄文字タクマーは果たしてどのTakumarなのか」を投げかけさせて頂いたと言う訳です。
 
何やら、重箱の隅を突くような話になってしまいましたが、ここまででもなかなか黄文字タクマーが手強いレンズだとお分かりいただけたかと思います。
次の章では、何故、黄文字タクマーが製造されたのかを掘り下げて考えてみたいと思います。


何故、黄文字タクマーが製造されたのか

 
では、何故わざわざSuper-Takumar 55mmF1.8の光学系を用い、その光学系に遮光板を組み込む手間をかけてまで55mmF2というレンズをラインナップ上に揃えたのか…この部分が黄文字タクマーに関する最大の謎となっており、確実な裏付けとされる資料等が見つかっていない為に、これまでも様々な推測が行われてきました。

この推測でほぼ定説のように述べられているのが
 
  • 「輸出向けセットレンズの廉価版グレードとして用意された」
  • 「製造段階で55mmF1.8との混同を避ける為に黄文字で55mmF2と表記した」
 
等の意見が多く見られますが、正直これには違和感を覚えてしまいます。と言うのも、明確なコストダウン構造のレンズを用意したのならともかく、この場合の55mmF2に対する上位版に該当する55mmF1.8に別の部品を組み込んでまで55mmF2とする行為にはコストダウンの思惑は感じられず、むしろ部品と製造工程の追加というコストアップとも思える仕様が採られている事です。

言い換えると、わざわざ高い価格で販売出来るであろう55mmF1.8に部品や工程を追加してまで55mmF2というレンズを廉価版として販売する動機が見当たらないからです。

これを補足する意見として、ユーザーや購入予定者に上位レンズの存在を意識させるための戦略と捉える声も見られますが、現実的にはセットレンズとして55mmF2を手にしたユーザーがレンズの故障や紛失等の要因以外で55mmF1.8やF1.4 に買い替えるケースなどはほぼ無いと考える方が自然な感覚では無いでしょうか。

更に、製造現場に於いて、工程の違う製品を混同してしまうような状況で管理するとは考えられず、注意喚起の目的から黄文字で「1:2/55」を記したというのも些か違和感が残る話です。
 
以下はあくまでも推論ですが、この辺りの事情をもう少し補完すべく、少し踏み込んで考えてみたいと思います。


1.代理店の要望
 
「代理店の要望」…とだけ書くと、何の事やら?となりますが、主な輸出先等の取り扱い代理店の要望で、55mmF1.8では無く、55mmF2としたという推論です。
 
Super-Takumar時代に登場したアサヒペンタックスSPを、ビートルズの来日公演の際、メンバーらが購入したというエピソードは有名ですが、カメラ自体の世界的知名度に比べて、東京の板橋区の工場を中心に光学製品を製造していた当時の旭光学は、海外マーケットを自社の傘下の販売会社でカバーするような体制は構築しておらず、海外での取引では現地の代理店にマーケットコントロールが委ねられる形であったのでは無いかと思われます。

もっとも、この時代のカメラメーカーのほとんどが、海外はもとより国内に於いても代理店制度を基にした販売体制を敷いており、メーカーとしての立場はあくまでも製造業、販売は販売専業の他社に委ねるといった取引形態が主でした。

当時のアメリカ合衆国に於ける旭光学製品の輸入元であったHoneywellのロゴと社名が入ったASAHI PENTAX SP
出典:flickr(@ Robert Couse-Baker)

余談ですが、写真関連企業の中でも富士フィルムは2000年前後まで強固な代理店制度を維持しており、Super-Takumar時代に比べ、量販店の台頭で小売店の力が大きくなった1980年代頃でも、小売店は富士フィルムとの直接取引は非常に困難だった模様です。
 
話が逸れましたが、このような形態での代理店制度の場合、代理店のメーカーに対する発言権は現在の自社系列の販社に比べて非常に大きく、ましてや拠点を持たない海外の取引ではこの代理店の意向が大きく影響したのではと推測されます。
 
一方ミクロ的な視点で、海外に於ける一般ユーザーと販売店の関係性では、日本に於けるカメラ専門店のような販売形態は少なく、今日で言うディスカウントストアやショッピングモール内の売り場で、さほどカメラに詳しく無い販売員が接客に携わるといったことも多く、そのような状況下で代理店は、「絞り値とシャッタースピードの関係は…」等とカメラ教室のような説明を行える店舗や販売員を育成するよりも、「シャッターダイヤルを一つ廻したら、絞り値も一つ廻せば良い…」といった風にシンプルなセールスクロージングを行えた方が、販売時に於ける効率は上がるかと思います。

ここで、この絞り値について考えてみると、F値が1.8よりも2の方が直感的に解りやすく、販売員のスキル云々に加え、ユーザーにも受け入れやすい土壌が構築されている気がしてならないのです。

これには、この時代まだまだ別体式の露出計や、露出計算尺、フイルムパッケージに印刷された露光ガイドを使って撮影するユーザーが多く、特に写真に関する知識や興味を持たない一般ユーザーにはF1.8という値よりもF2という値の方がすんなりと受け入れられやすいのでは無いでしょうか。

外光式露出計「PENTAX METER」を取り付けた「ASAHI PENTAX H3V(SVの輸出モデル銘)」
出典:flickr(@ E Magnuson)

メーターに刻まれた絞り値表記が国際系列となっており、F1.8という絞り値よりかは、F2の値の方が理解し易い。カメラに取り組んでいる私達から見ると、アナログ追針式メーターであるため、F2の位置より少し左側に針が寄っていればF1.8という考え方も出来るが、初見のユーザーの視点だと、実際にはどのくらいの位置でF1.8という絞り値を考えるかという結論に至るには、少し時間が必要ではないだろうか。

外部オート調光機能付きフラッシュ(サンパック auto200)の計算尺
出典:flickr(@ zaphad1)

これにも、絞り値表記として国際系列が用いられているが、自然光よりシビアなスピードライト撮影時、このパネルから開放F1.8レンズを使用しているカメラに詳しくないユーザーが、直感的に最適な条件を見つけるのは難しいと思われる。

このように考えると、アメリカなど広大なマーケットで製品の拡販を目指した場合、日本で好まれるようなメーカーや代理店が小売店を「育てる」ようなきめ細かい営業を行うよりも、代理店に販売を委ね、「広く浅く」製品の拡販を行う方が、遥かに効率的でしょう。

もっと乱暴な言い方をすれば、多少コストが嵩んでも、代理店が望むような「売り放し」が出来る製品を用意し、数を稼ぐといったスタイルが当時の海外戦略として有効だったのではないかと思われます。

このスタイルは旭光学にとっても大きなメリットとなり、ユーザーに分かりやすい製品造りといったイメージを維持しつつ、会社は製品の開発や製造に専念できるといった利点も考えられるでしょう。


2.物品税や関税等が課税された場合の弾力的な価格設定の為
 
これは推論の上の推論、所謂“空論”のような話となりますが、①の推論に加えて特に輸出先で製品に物品税や関税が課せられる場合、価格設定面に於いて弾力的な幅を持たせるため、敢えてカメラ用レンズで最も個数が販売されるであろう55mm標準レンズに黄文字タクマーを設定したと考える説です。
 
また、輸出には税金だけでは無く、輸送費や輸出手続きに関するコストなどが付加され、当然に代理店の求める利潤も考慮して販売価格が定められます。
 
この状況で、他の交換レンズと同様の卸率で標準レンズを卸してしまうと、結果的に高額となってしまい、いくら品質面で優れていた日本製の一眼レフというセールスポイントがあったとしても、価格面では従前の他製品と闘えない状況に陥りかねません。
 
しかし、コストを吸収するような本当の意味でのコストダウン生産品で勝負するのは品質に疑問符が付けられてしまうケースも考えられ、今後の商品展開にも影響が及びかねず、そこで、苦渋の策とまでは言えないものの、上位機種の55mmF1.8に準じた55mmF2を用意し、一定ラインの品質を保ちつつも、価格戦略的にも勝負がしやすい商品として黄文字タクマーを用意したのではないでしょうか。

この販売施策は55mmF2だけにフォーカスすれば確かに“損”かも知れませんが、カメラとセットされるレンズなので他の交換レンズに比べ、一定数の出荷が見込める上、他の交換レンズの価格設定にも一定の防波堤のような役割を果たし、代理店や旭光学自身の利益確保にも応えられるのではと考えられます。

この結果で得られる利益が55mmF2製造による損失を上回れば、旭光学にとって、製造する理由やメリットがしっかりと存在するレンズと言えると思われます。
 
以上が、推論ですが如何だったでしょうか。

今後、時間が経つにつれて、ゼロでは無いにせよ新たな証言や事実を記録した資料などが発見される可能性は少なくなり、黄文字タクマーの謎が永遠に封じられる事も有り得るかも知れませんが、急な都合で撮影予定がキャンセルされた日には、黄文字タクマーのメンテナンスを行いながら、このような推論を立てて考えてみるのも悪くないのではと提案させて頂きます。


Super-Takumar 55mmF2 数種のモデル

 
Super-Takumar 55mmF2はSuper-Takumar 55mmF1.8がベースという事も有り、Super-Takumar 55mmF1.8の変遷に応じた数種類のモデルの存在が確認されています。
 
初期のモデルは、絞りリングの開放絞り位置が左側に有り、カメラを手に取った状態で絞りリングを左に回していくと絞りが小さくなる形です。

Super-Takumar 55mmF1.8の初期型の外観。少し見難いが、絞りリングの並びが 「1.8 – 2 – 2.8 … 」の順で並び、後掲の後期モデルの絞りリングとは反対となる並びである事が確認できる

出典:flickr(@ kinumi.)

中期のモデルになると、絞りリングの開放絞り位置が右側となり、カメラを手に取った状態で絞りリングを右に回していくと絞りが小さくなる形に変更されました。また、中期のモデルの途中からは所謂アトムレンズと呼ばれるトリウムガラスが光学系に用いられ、レンズ銘表記の字体もそれまでのタイプから変更されています。
 
後期モデルでは、自動絞り切り替えレバーの表記も「A M」から「AUTO MAN.」に改められました。

また、この時期に製造されたベースモデルのSuper-Takumar 55mmF1.8では絞りリング上のF2の値を表す文字が省略されているのですが、黄文字タクマーでは当然ながら絞りリング上のF値は「2」より始まっています。

繰り返しとなりますが、コストダウンが目的で黄文字タクマーが造られたと考え難いのは、このようにF1.8 とF2の各レンズに別のパーツを用意する必要性が生ずる為です。

黄文字タクマー後期モデルの外観。鏡筒の絞り切り替えレバーの表記に「AUTO」の文字が確認できる。また、中期以降のポイントでもある絞りリング状の値の並びが「16 – 11 – 8 – 5.6 – 4 – 2.8 - 2」となっている
出典:flickr(@ Herbert Frank)

厳密にはこれ以上に切り替わり過渡期に於いて細かく分類されているポイントも存在しますが、撮影に使用する中古選びに於いて参考となる時期区分としてはこれくらいでも充分でしょう。
 
珍しい型としては、左開放、赤外指標(赤外線フィルムを使用する場合のピントシフト指標)無しの最初期型、他の型とは違う絞り切り替えレバーが付き、トリウムガラス未使用の中期型最初期バージョン、Super-Takumar銘にも関わらずSMCコーティングが施されている後期型の一部といったところでしょうか。
この辺りは撮影に使うよりもコレクターズアイテムといった感が強くなりますので、事情を知っているユーザーが出品したオークションや、Takumarに強い販売店などでは高めの価格設定が行われるかも知れません。

このような商品の場合、商品自体のコンディションに加え、希少価値の側面も価格に反映されていると言えますので、平均的な相場感と予算感覚を維持しつつ、ご自分の「相棒」となる一本を探してみてください。


ユーザーレビュー

 
ネット上などで黄文字タクマーのレビューや感想を探してみると、大きな傾向としては他のSuper-Takumarシリーズと同じく、現代レンズには無いフレアやゴーストを積極的に楽しむユーザーが多い模様です。
 
フィルム時代には、失敗作の要因としてやり玉に挙げられたフレアやゴーストですが、デジタルカメラの普及によりそれらを写真表現の一つとして捉える土壌が醸成された事で、黄文字タクマーは後の時代で評価が大きく上がったレンズの一つでしょう。
 
このようなレンズのレビューを参考とする際に気に留めておく必要が有る点は、オールドレンズ特有の「写り」を楽しむことが前提のユーザーにとっては利点であっても、現代的なレンズの持つシャープさや色再現性を求めているユーザーにとっては欠点になってしまうという点です。もし、この記事をご覧になっている貴方がレンズに現代的な「写り」を求めている場合、Super-Takumarシリーズには荷が重いと言わざるを得ません。
 
しかし、このようなレンズで写真を撮るという事は、撮影者の経験という観点からすると決してマイナスにはなりませんので、一度試してみるのも悪くない選択かとも思います。
 

中古市場

 
オークション上での黄文字タクマーの出品価格は、5,000円前後位から、1万円以下が殆どです。数件の入札後、出品価格よりも高めで落札されるケースも見られますが、それでも極端な落札価格に陥る事はまず無い模様です。
 
専門店でもオークションの落札価格と近似の価格帯で販売されている様子ですが、運が良ければジャンクカメラにセットされているケースも有りますので、ジャンクコーナーが設けられている店舗では、一応チェックしてみる事をお勧めします。
 
一つ、気を付けたいのが、海外オークション等での取引で落札した場合、Super-Takumar 55mmF2に限らず、トリウムガラスを用いたレンズを輸入した場合、税関で足止めを喰らう可能性が極僅かながら存在する点です。これにはトリウムガラスが放射性物質とされる事で、起き得る可能性なのですが、写真用レンズとして個人的な利用に関しては見逃されているといった風に捉えておく方が現実的かと思われますので、心の片隅に留めておく程度でも問題無いでしょう。
 
幸いにも、国内でも充分なコンディションの中古品が納得できる価格で手に入ると思いますので、根気よく探すのが一番の方法かと思います。


作例紹介


Canon EOS-1D Mark II / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ I&D Sioma)

FUJIFILM FRONTIER MINI LAB SP2000 / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ Sayo WOnoda)

PENTAX SP500 / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ Trojan_Llama)

PENTAX SP500 / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ Trojan_Llama)

PENTAX MX / Super-Takumar 55mmF2
出典:flickr(@ Takayuki Miki)


まとめ

 
『在るべき意味を思え…』

なんだか、ファンタジー小説のセリフのようで恐縮ですが、カメラレンズの深淵を覗く上で、この『在るべき意味』というのは、非常に大きな意味を持ちます。
 
黄文字タクマーの場合、この在るべき意味にミステリアスな出自も加わり、レンズの魅力がさらに増しているような気がするのは筆者だけでしょうか。
 
オールドレンズの楽しみ方…、人それぞれ十人十色なのでしょうが、気になっていたレンズを何はともあれ撮影に使い、自分にとって単に“スキ”や“キライ”で終わったとしても、それはそれで大きな“経験”には違いありません。しかし、その経験を抱いた“背景”を追うことで、より深くレンズを理解する事が出来るのもまた事実です。
 
とは言え、一筋縄ではいかないのもオールドレンズの世界。
 
黄文字タクマー Super-Takumar 55mmF2は手にすることで、貴方の写真レンズに対する「考え方」をより深めてくれる一本である事は間違いありません。
レンズを通して、歴史的な部分に触れ、更には自分だけの一本を見つける…。こうなるともう、立派なオールドレンズマニアの仲間入りです。
 
ただ、オールドレンズの深淵に近寄ろうとすればするほど抜け出すのが困難な「沼」に嵌ってしまいますので、そこだけはくれぐれも気をつけて下さいね。
基本仕様
対応マウントM42マウント
フォーカスMF
レンズ構成5群6枚
絞り羽根枚数6枚
焦点距離

最短撮影距離45.0cm
最大撮影倍率
開放F値
画角43度
防塵-
防滴-
サイズ・重量
最大径×長さ約57mm×約36mm ※製造時期によって差異在り
重量200g
フィルター径
発売日
発売日1963年01月01日